The heat of anger.
(怒りの炎)

松前正義隊八番小隊司令士、米田幸次は飛び交う火の粉に眼を細めた。


辺り一帯は既に昼か夜かさえの見分けもつかないほど、鎌風と共に真っ赤に昇る焔が天上高くまでを染め。
地面を覆う白銀は、舞い散る灰や硝煙の煤で黒々と身を変えてしまい。
透き通るような白雪の中に凛と聳え立っていた三層の天守は、
今となっては見る面影も無く黒煙に包まれていた。



ひたすらこの地に注ぐただどこまでも白い無垢な結晶が、汚れてしまってからはまだ幾つも経っていない。
耳を劈く銃声や喘ぎが轟き城下町を埋め尽くしたのは、つい数日前か…



いや、それ以前より一度
この最北の静かな港町には、吹き荒れる烈火より更に赤々しい血が流れた。

国諸とも揺れに揺れる時勢は、波紋が広がるように最果てで孤立している大地にまで響き渡り。
遥か異国でも賞賛されるほど自然も民も豊かな土地は、一瞬にして修羅場と化したのだ。


その最中に彼は『正義』の名と確かな大義名分を得た


その際に流した血など、
此処では一年でもっとも静かで長い純白の季節が全てをその白で覆い隠し。
また新たに輪廻が廻りだす時には、新たな色彩に大地は色付く。

時勢の目まぐるしい渦に漂った所で所詮この地では、掌握する掌が変わった程度のモノ。…の筈だった。





民衆も活気を潜ませ、町は訪れた凍てつく過酷な季節の静けさに包まれ。
冬枯れも色濃くなった頃合いに、その黒は白を汚した


まっさらな半紙に、溢れた墨汁が一滴ジワリと滲むような衝動では無く。
日が沈み徐々に、闇が空を蝕んでゆくような緩やかな猶予も無く。
それは、まるで瞼を落とし光を遮断した程度の雑作の如く、暗闇を齎したのだ。

雪にも負けぬ程の白い城壁は忽ち荒み。

瞬く間に足下の雪浪も相対的な黒と赤に染まり。

その三色が踏み均され混ざった地には、
躯の奥底から這い出てくるような嘆きや怒りなど様々な負の感情が渦巻いた



──…一敗血に染まった。
ただ、それだけの事だ。



しかし、それだけの事が、
米田には途轍も無い事に思えた。
きっと、自分がこの風土では無く海を挟んだ同国の向こう岸で育ったのであれば、
敗戦と言う意味に、此ほど不信感を抱かなかったかもしれない。


土地柄のお陰だろう。
何百年の歳月の中で極端に、この大地その物からして内乱の経験が乏しいのだ。

この最果ての地は少々風変わりな歴史を歩んで来た。

戦国乱世の狭間は萱の外。
徳川ですら国土の半分は離れた距離に手が細かに行き届く訳も無く、
辺境の地と呼ばれた大陸ほど広大な領土に事実上、置かれた支配は一つ。
唯一血で血を拭うような戦に及んだ先住民との争も、
時代と共に陰は薄れ、次第に協定を結ぶまでになり。
異国とは平行線の一途を辿っていたものの、それすら新たな兆しが見えいた。


変革を遂げようがこの地はこの地だけで、
一つの鳥篭で鶏が二羽喧嘩をするような争いを繰り返し。
篭の外の景色がどんなに変わろうとも、篭の中だけの空間の良さに満足していた


しかし今、それが儚く崩れさろうとしているらしい。

米田は辺り一面見渡す限り次々と塵になる家屋を目の当たりにし。
身体の芯まで響く騒音や、遠くから届く止まない銃声で地鳴りのよう震動する地面に、
此れまで国一つ変わろうとも揺るがなかった大地が、唸りを上げているよう感じた


何故この白い地が汚れなくてはならないのだろうか、
彼には理解の仕様が無い。

何百年の支配が滅びた今、
己も革命を遂げるべく『正義』に集い。
そして、土地を納め、新城を築き。
これまでこの風土が歩んで来たのと同じようにこの白い地の革命は既に『正義』が終止符を打った筈なのだ

このまま時期に白が薄れ和らいでいった頃に、
この地は篭の外の光景を知らぬ素振りで『正義』との下に新たに活気色付いてゆばいい。
敗北と汚名を着せられるのを納得出来る筈も無く。
そんな謂われを受ける筋合いも無い。


それが何故、他所から押し寄せた者に黒く犯され奪われるのか…
何故、この最果てを戦場と選んだのか…

既に瓦礫の山と化した恵まれていた面影を無くした町の片隅で、
彼はただ立ち尽くし嘆く事しか出来ない。

擦り傷だらけの拳を氷面を灰が覆う雪へ叩き付けると、傷に冷たさが沁みる。
思わず掠れた嗚咽が溢れた時─…、

潜んでいた物陰に、雪を踏み切る物音が近付き。
米田は火の粉を掻い潜り、視線をその先へ向けた。


そして、生唾を呑み込んだ

風に舞う硝煙や焔を物ともせず、一人の男が佇んでいた。

唾を呑み込んでしまったのは、その男が敵だからでは無い。
横顔でも分かる程に息を呑むような端整尽くされた顔立ちでもあるが、

細く刃物のような切れ長の眼には酷く残忍な印象を受ける。
そして、黒々とした黒革の羅裟で雪にも劣らぬ白い肌が際立って目立ち。
パチッと耳元で鳴る飛び火と共に、漆黒の髪を靡かせ

その男は何処か前を見据えながら、薄く笑っていた。


辺境の大地にはその広大な土地と変わらぬ大きさの夢を見て、難を承知に来る者が後を絶たない。

四方を囲む海や見渡す限り広がる野山の豊富な財源を求めて来る商人や、
独特の地形から成る天然の良港を必要とする諸外国も数多に現れ。
それが影響して、異国から居住を望む宣教師や、異国と密通を交わそうと目論む輩も訪れるようになる


しかし目の前に立つ男は、そのどれの類いとも違う。
この地へ望んで来たモノは、戦場以外の何モノでも無いのだ。


その男の立ち姿に米田の躯の根底から怒りや怯えが一色単に沸々と沸き上がり、
ただ背筋が悪寒に震える。


黒真珠のような深い色の眼光で男が見ているモノはおそらく、燃え盛る町並みだ

この火は落城を強いられた際に、味方が放った。
港町の波風に勢いはおぞましいほど増し、瞬く間に城下の半分以上に火の手が回っている。

地獄が存在するとしたら、まるで同様の光景なのかもしれない。
米田は息を殺し、
その眼と、歪んだ口許と、その顔を、記憶に焼き付けるよう眺めた。





「……──総督」

次に、男が数人増え。
その中でも階級が上なのだろう身形の整った男が、
佇んでいた『総督』に駆け寄せて来た


「城内の仏間にて松前公同族を八人ほど発見。弘前へ渡航させたく思いますが…」

「異存無い。女子供の身柄はどうだ?」

「ご指示通り、各寺内への避難作業は引き続き順調です」



「……で、その者は、

 どうすンだ?」


耳に低音が響き眼を見張った時は既に、
米田の脇にあった戸板が崩され。
ソコで数人の男達が取り囲んでいた。

この時、ここで抵抗する気力はほぼ残っていなく。
射撃の腕は自慢であるが、残る弾数では形勢が悪過ぎる

当に存在が気付かれていた様子だが刀を向けられているだけで、言い分は聞く。と言う事か、
米田は静かに立ち上がった

物陰から出ると、最奥に居る『総督』らしい男が僅にその眼を細め、

「動けるなら上等だ。」

更に一段と刻んだ笑みが深まったよう思えた。


それを米田は向けられた眼差しを外す事なく真っ直ぐ見返す。
この顔を忘れてなるものかと…いや、此から先忘れる筈も無いだろう。
いま目の前に立つこの男こそが、
国土の辺境と言われる最北端の長きに渡る藩の時の中でもっとも最初に、屋城を破滅へ墜し入れた男である



「藩兵は既に裏山へ撤退した。津軽に渡るのも構わねぇ、取り決めている最中だが…」

手筈通りであれば箱館手前に築いた館の新城が退避場所だ。
そこにも当然、今正に敵が押し寄せようとしている時だろう。
見逃されるのは既に勝敗が火を見るより明らかな故の情けなのだから、
今はそれを預り一刻も早く部下と合流しなくてはならない


「其には及びません…」

掠れ酷く渇いた喉を叱咤し、それだけ放ち一礼した


「拙者は松前正義隊の米田幸次…。御免」


「よく名乗った。行け」



米田は男に背を向け、敗陣となった松前を離れた。

この忘れもしない男を米田が再び目にするのは、
翌年の五月十一日、晴れた朝の場所は一本木関門。
黒い羅裟を翻し、残忍なまでに端麗な顏で前を見据え
戦場で佇む姿である。




米田さんは言わずと知れた副長を撃った人(と、証言してる人)ですねぇ…。
そして副長と話してる人は勿論、人見さんです。

それより、何が言いたかったかと言いますと…、
蝦夷は確かに藩内では後継者争いとか家老派閥抗争は他藩と同様それなりに起こってるけど。
それも戦国乱世の領土争いとか、幕末中期みたく諸藩上げての入り乱れた合戦は無い訳ですよ。
いっつも蝦夷は仲間外れ。←
だって、陸が繋がって無いから敵と隣合わせでも無いし。どっかの武将が攻めてくるぞ!とか、どっかの志士が藩の某を暗殺した!とか騒ぎには程遠いい…。
まぁ、永倉の八っつぁんみたく内地で大活躍してる藩士も居ますが(笑)

露国やアイヌと近所付き合いが難しいだけで、どっかの敵が、侵略してきたー!ってのは副長たちが始めてで。国内でもっとも一番新しい城だし。副長が松前城を落とした最初で最後の敵将だった訳で、

蝦夷では松前クーデターが起きて、政権が交代した時点で維新は終了したし。
後は内地の戦争が終わって明治になるの待つだけだと松前勤王派は思ったのに、
まさか榎本さんが徳川再建の場所とまで考えて蝦夷を選ぶとはビックリ!
しかも敗戦は敗戦でも、城を明け渡すとか藩主を差し出すとかじゃなくて、自分たちの故郷が丸ごとごっそり奪われちゃったんだから。
それはもう翌年に掛けた藩士たちの想いは計り知れない。
…んじゃなかろうか、など松前側から考えてみただけのお話しです(^^;
蝦夷内だけを見れば今でも大規模な内乱は箱館戦争しか無いってのは、平和ボケした一道産子にしたら奇跡見たいな感覚…?そして、戊辰の敗戦があったからこそ旧藩士の多くが道内各所へ移民し。それから今の蝦夷があると思えばこそ、
深く感謝致しませんとバチ当たるっしょやっ!!←

後書きまで長々とお付き合い有り難うございました!

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